7. レンズのはなし

 物や人の像を移動するには、前もってその像を固定したり記録しておかなくてはなりません。物や人の像を記録するには、絵に描く方法と写真に撮る方法があります。実物の忠実さおよび複製の作りやすさや加工のしやすさなどの点からみると、写真による記録が圧倒的に有利です。この物や人の写真像(実像)を作ることのできる唯一の道具がレンズなのです。言い換えれば、レンズなくして像(実像)は取り出せないのです。


1. レンズの役目と用途

1)レンズの主な役目と使い道は、レンズの光を曲げる性質(中心に光を集めたり=収斂(しゅうれん)したり、周辺に光を拡散したりする働き)を利用して、実物 とそっくりな像、すなわち、実像を作ることに使われます。
 鏡や虫メガネを覗き見ても物や人の顔などが見えますが、このときの物や顔は見せかけの像=虚像といいます。なぜ虚像と言うかといいますと、物があると思われるところには光が来ていないために、そこにフィルムやスクリ−ンを置いても像を記録したり映したりすることが出来ないからです。
 虚像は、正立して見えます。ただし、鏡は左右逆になります。
 実像は、上下左右が逆になって映し出されます。そして映し出されたところにフィルムやスクリ−ンを置くと、物の像を記録したり映したりすることが出来ます。この像が映し出されているところ(フィルムをセットするところ)を結像面といいます。このように光が確実にきていて、その光によって作られた像を実像といいます。実像を作る位置は厳密に制約されていますので、少しのずれでも像はぼけてしまいます。
 また、この空間の結像面にできた実像は、目で直接見ることはできません。なぜならば、像を作った光は、後方に著しく大きな角度で拡散するからです。目が網膜に上下左右逆転した実像を結ばせるためには、目に入る光束は平行または平行に近い光束でなくてはならないのです。したがって、大きな角度を持った結像後の光は、目の結像能力を遥かに越えているので、目は空間の実像を確認することはできないのです。
 撮影用レンズで最も代表的なものが、写真カメラ・デジタルカメラ・テレビカメラなどに付いているレンズです。
     *以後、ことわりのない限り、この撮影用のレンズのことを述べます.

2)その他の役目と使い道は、やはりレンズの光を曲げる性質を利用して、物を大きく見たいときの拡大鏡や目の焦点位置を変えてやって、よく見えるようにするときのメガネ(近視用・遠視用・老眼用)などに使われます。
 拡大鏡(虫眼鏡・ル−ペ)は物をそのレンズの前側の焦点に置いて拡大像を作るのに使います。ル−ペの倍率は,そのレンズの焦点距離で平均至近距離の明視距離(25cm = 250mm)を割った数で表わされます。例えば、焦点距離 50 mm のル−ペ倍率(M)は、 M=250/50 =5倍(5xと刻印される)となります。
 したがって、焦点距離が短いほど高倍率に有利です。一般的に、高倍率ほど視野(見たいものの面積)が狭くてよいので、レンズの直径は小さくなります。
 近視は、目のレンズ(水晶体)の凸状態が強すぎるなどが原因で、そのままでは網膜の手前で像を結んでしまう状態になっています。これを調節するのが近視用のメガネです。したがって、その人に合う近視用メガネは、その人の結像位置と網膜のずれた分に相応した凹レンズ(結像位置を延長する)が使われている筈です。
 遠視用メガネは、近視用メガネと逆の作用をする適度な凸レンズが使われています。


2.正しいレンズとは
 

 正しいレンズとは、全く歪みのない、理想のレンズのことです。すなわち、実物と寸分違わぬ完全な相似形で、その上、色も全く同一な実像を作ることのできるレンズをいいます。
 ピンホ−ルカメラのピンホ−ルをレンズとみなすと、ピンホ−ルレンズは全く歪みのない正しいレンズです。しかし、良いレンズとはいえません。それは、あまりにも暗く、情報を取り込む力が弱すぎるからです。


3.正しいレンズは存在しない

 完全に正しいレンズは、特別な場合を除いて、ほとんど存在しません。正しいレンズに 近いレンズは沢山あります。ただし、正しいレンズに近い良いレンズは、正しさを高 くするために、いろいろな手段や技術を駆使して、精度の高い製品にしているので、 高価なものになります。
 *特別な場合のレンズ
  大型望遠鏡・衛星カメラ・測量用航空カメラ・偵察カメラなどに使われるレンズは、非常に
  正しいレンズに近いものが使われています。
  ただしこれらのレンズは、撮影距離が限定(像距離が一定)されていて設計しやすいとはい
  うものの、口径(直径)が大変大きな物であり、量産されることがないので、桁外れの高価
  なものになります。


4.正しいレンズが高価になる理由

 レンズを作るとき、少しでも安く生産しようとすると、量産をしなくてはなりません。量産するためには、レンズ表面を一定の半径の球面にして、器械で研磨することになります。ところが、球面に磨かれたレンズは、レンズの周縁にいくほど光を強く曲げてしまうという宿命的な作用をするので、レンズ中心部を通った光の焦点とレンズ周辺部を通った光の焦点がずれてしまうのです。このために、1枚の球面レンズだけでは、実物と相似形の像は作れません。
 このように、レンズの球面によって実像に乱れを起こす現象を、球面収差といいます。球面収差には5つの収差があります。
 レンズを正しいものにするためには、この収差をなくしていかなくてはなりません。収差を無くすためには、凸レンズと凹レンズを組み合わせたり、レンズの周縁の薄いところを切り捨てたり、屈折率の違うガラスやレンズの組合せ枚数などを想定し、コンピュ−タで繰返し計算して正しいレンズに近付けていきます。
 球面収差を補正しただけでは正しいレンズになりません。正しいレンズにするためには、波長(色)の違いによって焦点位置がずれてしまう、色収差も除去しなければならないのです。
 結果としては、正しいレンズに近付けるためには、辺縁を切り捨てた肉の厚いレンズ(肉厚のメニスカスレンズという)を数多く使うことになるために、重くて高価なレンズになるのです。
   *コンピュ−タの開発・発展はよいレンズの生産に大きな貢献をしました。


5.レンズの収差

 レンズの収差には球面収差と色収差の2つがあります。

1) 球面収差;同じ波長の光だけを取り上げたとき、球面のため像が歪む収差のこと。

(1)
球面収差(開口収差ともいう)
真っ直ぐに(光軸に沿って)光がレンズを通ったとき、レンズの中心部を通った光の焦点(レンズから遠いところに結ぶ)とレンズの周辺部を通った光の焦点(レンズに近いところに結ぶ)がずれてしまう現象の収差をいいます。
(2)
彗星(すいせい)収差(コマ収差ともいう)
レンズの光軸に斜めに入った小さな点(正確には平行光束)の光が、フィルム(像を作る面=像面)の上では、点にならないで、彗星のように尾を引いてしまう現象の収差をいいます。
(3)
像の彎曲(わんきょく)収差(像面彎曲収差ともいう)
双眼鏡を覗いたときなど、視野の中央部の像が向こうに凹んで見えたり、こちらに膨らんで見えたりする現象の収差をいいます。
(4)
像の歪曲(わいきょく)収差
例えば、正方形の図形の像がひずんで、四隅が引っ張られてのびた形状になったり(糸巻き型=昔の糸巻きに似た形)、逆に、四隅が押されて縮んだ形状(たる型=ビールの樽に似た形)になる現象の収差をいいます。 
(5)
非点収差
読んで字のごとく、点が点にならない現象の収差で、光軸を横切って入ったまん丸い円形の光がレンズを通って進むと、まん丸、たてのだ円、まん丸、横のだ円の順に変化する収差をいいます。
「球面収差の特徴」
1.
レンズの周縁ほど収差の度合が大きい。
2.
短焦点レンズほど収差の度合が大きい。
3.
開口収差と彗星収差は、撮影のとき、絞りを絞ることによって、残存収差の影響を小さくすることができる。ただし、絞ると、レンズを暗くする=取り込む情報量を少なくするので、レンズの性能=分解能を低下させます。
4.
像の彎曲・象の歪曲・非点収差は、理論的に言っても、絞り込んで残存収差を軽減することはできません。
5.
歪曲収差は絞りの位置調節だけで解決できる収差です。特に前後群対象型レンズの場合、前後群の中間に絞りを置くことによって、完全に補正できる収差です。
2)
色収差;波長の違う光を同時に取り上げたときの色によって像が乱れること。
(1)
軸上(タテ方向)色収差(焦点距離の色収差ともいう)
違う色が隣り合わせになっている物体から出た光が、真っ直ぐに(光軸に沿って)レンズを通ったとき、色の違う光、すなわち波長の違う光は、それぞれの波長に見合った位置に焦点を結び、色が違うと焦点が一致しない収差をいいます。
例えば、波長の短い青色の光は屈折率が高い(曲る角度が大きい)ので、レンズに近いところに焦点を結び、波長の長い赤い色の光は屈折率が低いので、レンズから遠いところに焦点を結びます。
(2)
倍率(ヨコ方向)色収差
上と同様な物体から出た色の違う光がレンズの光軸に斜めに入ったとき、像を結ぶところ(像面)では、屈折率の高い青色の光は光軸に近いところに焦点を結び、屈折率の低い赤い光は光軸から遠いところに焦点を結ぶ収差をいいます。したがって、この収差が残っていると、色の境界線が太くなったり、色の境界線では色が重なった写真になります。

6.レンズの収差補正

 個々の収差についての収差補正法がありますが、共通した作用をする場合や互いに逆作用をする関係の収差もあり、複雑なため、ここではその総合的手段を簡単に述べ ることにします。

(1)
レンズの周辺の薄い部分を切り捨てた肉圧のレンズを用いる。
(2)
凸と凹のレンズの組合せ型を採用する。
(3)
レンズの枚数を増やす。
(4)
絞りの位置を調整する(歪曲収差)。
(5)
前群レンズと後群レンズを対象型に近いものにする。
(6)
非球面レンズを製作し採用する。ただし、生産性に難点があります。

7.レンズの性能(分解能)

 レンズの性能は、そのレンズの明るさで決ります。なぜならば、情報が多いほど実物 に忠実で正しい像が作れるからであり、明るいレンズほど口径(正確には瞳の径)が大きいので、物体からの情報を大量に取り込むことができるからです。
 そのレンズの明るさは、開放のときのF値(絞りの数値)で表わされます。そして、実際のレンズの明るさは、すなわち使用時のレンズの明るさは、撮影する時に セットしたF値によって決ります。
 レンズの性能は、分解能(分離できる2点間の距離)で表わされます。分解能は分離できる2点間の距離を表わしますので、数値が小さいほど、レンズ性能が優れていることを意味します。
 正しいレンズの分解能(d)は公式ですぐに数値にできます。
       d=1.22λF
   *1.22;系数(円開口). λ;光の波長(普通は550nmなどを使う) F;絞り値
 かりに、絞りをF2にセットしたときの正しいレンズの分解能は、
     d=1.22λF→1.22x550x2→1342nm→1.342μmとなります。
 すなわち、約 1.35ミクロン(1 μm=1/1000 mm)以上離れた2つの点ならば、なんとか点が2つつあるように見せる能力があるということになります。
 現実の実感としては、隣り合った離れた2点は、はっきりと分離した状態で見えないと承知できませんので、余裕を持った式に直す必要があります。また、レンズ製作の公差やいろいろなランクのレンズもあることを考える必要もあります、したがって、現実の生きたレンズ分解能=実効分解能(de)は、
  おおよそ
       de=2λF 〜 de=4λF    と見るのが妥当と思われます。
  この de=2λF 式で、F2にセットしたときの分解能は、2.2 μm になります。
 この分解能を、一般によく使う解像力に直すことができます。解像力はフィルムなどの像を固定するための記録媒体の性能を表す言葉で、1mm (1000μm)の間に何本(正確には何対)の明暗の縞を記録することができるかの数値ですが、レンズの像面の空間における性能を示す分解能 (d )と像面の記録媒体の解像力 (R) の関係は、次のような簡単な式で表わされます。
       R=1000/d (単位はμm)   または  d =1000/R
  例えばF2のレンズの実効分解能を解像力に変えると、
       R=1000/2.2 ≒ 455 本(対)  になります。
  因みに、ネガ上の分解能はどうなっているかといいますと、カッツという人が唱えた式によって得られます。かりに、解像力200本(分解能Fd=5μm)のフィルムを使い、レンズの絞りをF2にセットして撮ったときのネガの分解能(Nd)または解像力は、次のカッツの式によって得られます。すなわち、ネガの分解能は、フィルムの分解能にレンズの分解能を加えたものとなります。
       Nd=Fd+Ld →  Nd=5+2.2  →  Nd =7.2μm
       (F11のときは Nd=5+12.1  →  Nd =17.1μm)
       NR=1000/7.2   →  NR=139本
        (F11のときは NR=58.5本)
 したがって、撮影前のフィルムの解像力と撮影後のネガの解像力は違うのです。上の例では、200 本が 139 本および 58.5 本に低下しています。
 これによって、撮影のときに絞りをどんどん絞ると、ネガの解像力(ネガ上の像の解像力)がどんどん低下するということがよく分かるかと思います。


8.撮影レンズのF値はどのように決まるのか?
 

 撮影レンズ以外のレンズには、通常、絞りがなかったり、絞りの数値であるF値が表記されていないことが多いのですが、撮影レンズには必ず絞りの数値、すなわF値が刻印されています。
 そのレンズの固有の最大の明るさを示す、開放時のF値は、そのレンズの性能の良し悪しを判断するときの最大の要因なのですが、ごく簡単な式から算出できるのです。
   そのレンズの焦点距離を( f ) 、そのレンズの有効口径(直径)を(D)とすれば、
       F= f ÷D となります。
    焦点距離=50mm、口径=25mmの35ミリ標準写真レンズを例にとると、
       F=50/25 → F=2 となります。
 この算出方法からも分かるように、この式にはレンズの正しさの度合やレンズ材料の良し悪しなどは取り上げられていません。したがって、F値が同じでも、性能の全く違うレンズや値段の全く違うレンズが多数存在するわけです。
 F値の由来をいいますと、レンズの性能を表わす明るさは、本来開口数と呼ばれる数値で表示されるものでした。顕微鏡などは今でもこの開口数 (A/aperture) で明るさが表示されています。開口数表示では、普通のレンズは小数点以下の数値になって使いにくいので、開口数算出の基準であったレンズの半径を直径に置き換えて口径比 とし、この口径比の逆数を使うことにしたのです。この逆数がF値というわけです。
  前のレンズの例で示すと、次のようになります。
       開口数(A)=半径(D/2=12.5)÷ 焦点距離(f=50).... → 0.25
       口径比   =有効口径(D=25)÷ 焦点距離(f=50).... → 0.5
       F値(逆口径比)=1÷口径比(0.5) ................ → 2.0   
   *F値と開口数の関係は、F=1/2A,A=1/2Fになります.
   *肉眼の明るさは、取り上げ方によっては約F 2 〜1、8 なので、F1、4 のレンズは肉眼より
    明るいレンズであるといえるようです。ただし、肉眼は少し暗いところでも、慣れてくると、
    けっこう見えてくるようになります.   


9.レンズを明るくするもう1つの技術
SMC=Super Multi Coating/U-SMC

 1本のレンズの構成枚数が多くなると、それぞれのレンズの表面や貼り合わせてある境界面での光の反射量が多くなります。このレンズ内の反射は、画質を低下させる、いわゆるかぶり・フレア・ハロ−の原因であるばかりでなく(このためにレンズの構成枚数を増やせなかった)、光をレンズ外に跳ね返してしまうために、レンズを 暗くしていたのです。
 光を全く反射させない方法が1936 年頃発見されてから、真空蒸着技術の開発とあいまって、収差補正の大きな手段である、レンズの枚数を増すことも容易になり、著しく高性能なレンズがそれまでより随分安く製作できるようになりました。その技術が反射防止膜=コ−ティング技術です。
 このコ−ティング技術は、コンピュ−タとともに、光学エレメント(レンズ・プリズム・ミラ−などの光学要具品)の世界に多大な貢献をしました。
 反射防止膜の原理は、膜の材料の屈折率はレンズの屈折率の平方根であり、膜の厚さは波長の1/4というものです。したがって、屈折率の低い、フッ化カルシュ−ムやフッ化マグネシュ−ムを真空蒸着で厚さをコントロ−ルしながら膜をはりつけています。反射防止膜採用初期のレンズでは、3色(オレンジ・緑。青)から4色の光に対して処理していました。このため、レンズの表面が赤紫や青紫、なかには緑色に見え るものもありました。
 現在の高級レンズは、もっと多くの色に対して反射防止膜が施されています。このようなレンズは超多層膜=ス−パ−マルチコ−ティング(SMC)処理されたレンズと呼ばれています。このレンズは逆光に非常に強くなり、逆光で撮っても、白内障の目で見ているような、かぶって白ちゃけるようなことがなくなりました。
 最近では、通常の SMC の上をいく、非常に多数の波長の光に対して反射防止処理(ウルトラSMCともいうべき超超多層コ−ティング=U-SMC)されたレンズが多くなってきました。これらのレンズは、黒または灰色に見えます。
 また、メガネにもこの超超多層コ−ティング処理されたものが多く見られるようになりました。周囲の電灯などの明るい光が全く反射しないメガネがこれです。


10.良いレンズの条件とは

 よいレンズの条件をいくつか箇条書にしてみます。
   ^収差が十分に取り除かれて、正しさの度合が高くなっていること.
   _焦点距離に比べて口径が大きく明るい(F値が小さい)こと.
   `レンズ1枚1枚の材料(ガラス・プラスティック)が均一であること.
   a材料の中に、光を散乱させる不純物が混入していないこと.
   b各レンズ表面が完全に近い鏡面状に磨きができていること.
   c各レンズに傷が全くないこと.
   d全構成レンズの表面が超超多層の反射防止膜処理されていること.
   eズ−ム比がより大きいこと.
   fより軽いこと.
   gより価格が安いこと.


11.正しさの高いレンズが作りにくい環境

 レンズから物体までの被写体距離とレンズから被写体の実像を作る像面までの像距離とは、セットになっている裏腹の関係(共役関係)になっています。
 したがって、被写体距離が無限遠のときには、像距離はそのレンズの焦点距離と完全に一致する関係にあるのです。これは平行光束は焦点に集まるという理論どうりです。すなわち、無限遠からくる光は平行光束と等しいからです。
 レンズの収差補正は、実像を結ばせるそれぞれの位置について行われなくてはならないし、行われています。したがって、この像を結ぶ位置のずれる距離(像距離の変化量)が大きいレンズ程、収差補正のポイント数(箇所)が多くなります。
 収差補正のポイント数が多くなると、前のポイントでは収差補正度は良かったのに、今度のポイントでは不合格という、コンピュータ計算の結果が次々に起きるのです。しかし、さらにコンピュータを駆使してどの結像点でも合格点が得られるように、前に戻って繰り返し繰り返し計算して,目的のレンズを設計し製作するのです。
 以上のことから、像距離の変化量の大きい環境下で使うレンズほど、正しさの度合を上げることが難しくなることが分かります。
 一般撮影では、被写体距離の位置変化は、無限遠から焦点距離の約20倍(標準レンズ( f=50)では1.0m)位になります。撮影倍率的にいいますと、0倍から1/20倍 ということになります。
 このときの像距離の変化量は、約 2.5mm (0.05・f)になります。この像距離の変 化量は撮影できる最も近いところに焦点を合わせるときに、レンズが繰り出される量と同じです。
  接写(クロ−ズアップ)では、1/20倍から1/5倍位になります。
  マクロ撮影では、1/5 倍から1/2倍(チュ−ブを使って等倍)位になります。
   *等倍以上のマクロ倍率は、一般に、2倍から顕微鏡の低倍率域までとなりますので、約 30 倍
    となります。
    マクロ撮影での像距離の変化量は、1.2f〜1.5f →1.5−1.2=0.3f となり、 焦点距離 90mm
    のレンズとすれば、約 27mm になります。
   *像距離の計算式は U=f(1+β) ただし、βは倍率を表わします.
   *像距離変化量(B) の計算例;B=(U=90(1+1/5))−(U=90(1+1/2))
                 B=(108)−(135) → 27
 これほど大きな像距離の変化(移動)量があると、全体のポイントのバランスをとりながら、正しさを高めることは非常に難しくなるので、正しさの度合の高いマクロレンズは少ないのです。
 また、クロ−ズアップ写真を撮るときに、専用に設計されたレンズでなく、一般撮影レンズにクロ−ズアップレンズなどを付けて流用することはできますが、マクロ撮影に一般撮影レンズを流用することはできません。なぜならば、設計基準の設定撮影倍率や収差補正の像面の移動量がまるで違うからです。
   *レンズの明るさは、撮影倍率が高くなると表示のF値よりも暗くなります。このために、マクロ
    撮影では、露出不足で失敗することが多いのです。
    暗くなる程度は次の式で分かります。
      実効F値(Fe)は、Fe =F( 1+β)の式で引き出します。
    前のレンズの例で示すと次のようになります。
      β= 1/5・・・・・ Fe =2( 1+0.2)→ 2.4  約1/2絞り分暗くなっている.
      β= 1/2・・・・・ Fe =2( 1+0.5)→ 3.0   約1絞り分強暗くなっている.
      β= 1/1・・・・・ Fe =2( 1+1.0)→ 4.0   2絞り分暗くなっている.
   *したがって、撮影倍率が約1/5 倍以上になったら、補正しないと露出不足になります。ただし、
      補正機能の付いたオ−トレンズは、露出不足は起りません。
   *F値のステップは、1、1.4、2、2.8、4、5.6、8、11、16、22、36 になっています。
       1ステップ(1絞り)の差は、光の量でいうと、200%(開いたとき)または50%(絞った
       とき)の差になっています。

 もう1つの正しいレンズの作りにくい環境があります。その環境は、焦点を合わせたまま、すなわち像面の位置を固定したままそのレンズの焦点距離を無段階に変えるというものです。このレンズはズ−ムレンズと呼ばれるものですが、どんな撮影レンズでも、被写体距離と像距離は共役関係にあることから、同様に正しさの高いレンズの製作は難しいことが理解できると思います。
 したがって、解像力の良い、画質の善し悪しがすぐに分かる、フィルムを使う写真レンズにはズーム比の大きいレンズが見当たらないのです。ズーム比を大きくするほど正しさの低いレンズになるからです。
 一方、解像力の良くないテレビの世界では、画質の良し悪しはあまり問われないので、正しさは低いがズ−ム比が大きく、縮小拡大が簡単にできる、便利な機能が優先評価されるので、ズ−ム比の大きいレンズが多くなります。
 特に、ビデオカメラ用のレンズは、多少切れ味が悪くとも、色が少々派手に出たりしても許されるからです。なぜならば、静止画像に比べて、被写体がよく動き回る画像では、多少ぼけ気味でも、脳の今までの経験などによるイメ−ジングの働きによって、はっきりと表現されているように受け止めてくれるからです。
 勿論これらのことは、現在採用されている「NTSC」というテレビの方式での話です。いずれ「NTSC」に替わって採用されることになる「Hi-Vision」方式の高精細テレビでは、話は別になります。
 この「Hi-Vision」テレビは、解像力において、35 ミリの写真と同等の高品位の画質を提供しているといわれています。したがって、ここで要求されるレンズは、正しさも高く、ズ−ム比も大きいものが要求されます。加えて、黄金分割よりも横が長いので、大きなサイズのCCDなどのフィルムに替わる撮像物に見合った画角の大きなレンズが要求されることになります。したがって、これらの要求を満たす「Hi-Vision」用のレンズは、大変に高価なものになるでしょう。
 蛇足ながら、横の広がりが大きい画面ほど、心理的に、迫力を感じさせます。
[参考例;テレビ]
   *世界のテレビ方式
(大きく分けて3つの方式があります)
    1、NTSC(National Television System Commitee)
       採用国;アメリカ系/北アメリカ全土、日本、台湾、韓国、フィリピン、メキシコ、
           エクアドル、ペル−、スリナムなど.
    2、PAL(Phase Alternating by Line)
       採用国;ドイツ系/ドイツ圏・アフリカ圏/シンガポ−ル、マレ−シア、香港、など
       その他の系;イギリス/イタリア/オ−ストラリア/ブラジル/中国/ニュ−ジ−ランド/
             南アフリカなど
    3、SECAM(Sequinntial Couleur a Memoire)
       採用国;旧ソ連系/ロシア、ポ−ランド、チェコ、ハンガリ−、ブルガリア・など
       その他の系;フランス/サウジアラビア/モナコ/旧東独/ルクセンブルクなど

       *走査線数などの比較 
                 NTCS     PARL    SECAM    Hi-Vision
         走査線数(本)    525       625        625        1125
         フィ-ルド数/sec    60       50        50          60
         駒数/sec      30       25        25          30
         縦横(アスペクト)比  1:1.33     1:1.33     1:1.33       1:1.67
                 (3:4)      (3:4)       (3:4)        (3:5)
         (黄金分割比=1:1.618)


12.等倍レンズは作りにくい

 等倍撮影をするためのレンズは、直感的には、簡単に作れるように思われますが、実はその反対で、製作技術的にも非常に厄介な代物なのです。
 手軽な等倍(1倍)撮影レンズが殆どない理由を上げてみます。
   ^特殊な用途なので、需要が非常に少ないこと。
   _もし、仮に作るとすると、非常に高価になること。
   `像距離と被写体距離が同等という、レンズ設計の極限といわれる難しい環境にあること。
     像 距 離(U) =f(1+β)  → U=f(1+1) → U=2f
     被写体距離(U') =f(1+β)  → U'=f(1+1) → U'=2f
    この式から像距離と被写体(撮影)距離は等しく、しかも焦点距離の2倍であることが分かります。
   a等倍レンズは、被写体距離を変えての倍率可変用としては不向きであること(像距離の移動量が非
    常に大きい領域のため)。
 このように、等倍専用レンズは作りにくく、殆ど存在しないので、どうしても等倍撮影を頻繁にしたいときは、35 mm 判写真では、マクロレンズに繰出し量を増加する(像距離を延長する)チュ−ブを取り付けて撮影することなります。
 マクロレンズのない写真領域では、同じ標準レンズなどが2本あるときは2本のレンズの先端同士を合わせてつなぎ、2本とも無限遠に撮影距離を合わせて固定し、カメラに取り付けて、そのレンズの焦点距離に物体を置けば等倍撮影ができます。
 このような同じレンズを向い合わせにつないで1本化する方式のレンズを「タンデムレンズ」といいます。この「タンデムレンズ」といわれるレンズで大口径の大型のものは、高度な医療機器や絵画・写真を本やポスタ−印刷するときの製版用カメラなどの、等倍または等倍に近い画像の取得やその処理に用いられているようです。


13.写真を撮るときに気をつけること

 よい写真を撮るために、気をつけるとよいと思われることを上げてみます。
   ^焦点をしっかり合わせること.
     *焦点が合わないと、レンズに入った情報が全て不確かな、でたらめなものになります。
   _手ぶれを防ぐこと.
     *カメラを持った手が振るえると、焦点が合わない時に似た結果になります。
   `写したいものが確実に撮影範囲枠に入っていることを確認する。
     *確認しないと、首から上がなくなったり、左右の半身がなかったりします。
   a被写界(焦点)深度が浅くてもよいときは、絞りはできるだけ絞らない。
     *絞りを絞ると、深度は深くなるが、分解能=解像力が落ちます。
   b逆光のときは、2倍から時には3倍位露光を多くする。
     *適正露光で撮影したいところが被写体の影の部分になるからです。